2009年10月25日日曜日

古書茫洋1

本が好きである。
学生時代は本を集めることに熱中した。
狂っていた、と言ってもいい。
仕送りのほとんどすべてを本につぎ込み、金がないのでパスタだけを買って、素パスタと称してパスタを茹で醤油と胡椒をぶっかけて、それを食いながら本をパラパラめくっていた。



僕は一度物欲をすべて捨て去ったことがある。
旅立つ前のことであった。
すべての私財を処分しようと、家の中にあるものすべて、友人に持っていってもらい、それでも余ったものはジャンク屋さんに引き取ってもらった。

本も例外ではない。

本棚を友人に公開し、好きな本を好きなだけ持っていってもらったが、それでも何冊か余った。
そこで、左京区でガケ書房という書店を経営している友人山下氏に相談して、「いる?」と訊くと「いる」というのですべてあげた。

ああ、これできれいさっぱり心置きなく旅に出れる、と僕は京都を後にした。



旅に出て何ヶ月かして再びガケ書房に遊びに行くと、あげたはずの本がガケ書房の本棚に並んでおり、値段までついて売られていた。あげたもんだから何をしようが勝手だが、売るのはちょっと酷いぜ、と詰め寄るつもりで山下氏に問いただすと、にやにやしながら、これどうぞと、封筒を差し出す。どうやら、本が売れた売上であるらしい。覗くと、ちょっとした額が入っていた。当時(まあ今もだが)、明日も知れぬ百円レベルの生活をしていた僕にはとてつもなく大きいお小遣いだった。

それ以来、旅の道中、京都に寄るのが楽しみになった。
僕の本がどれだけ売れたか、額がどうのというより、その動向が楽しみで楽しみで仕方ない。
ガケ書房に寄って、風博士の棚をチェックして、ああまだこの本売れ残ってるよ、とか、買われていった本たちのスリップの束を見て、そうかー、この本、とうとう売れたかー、どんな人が買っていたんだろう、と思いを馳せる。



ある日、旅先で、風博士の在庫が少なくなってきた、との報告を受けた。
そうか、それなら。
と、僕は、旅先で古書を探して仕入れ、自分で値をつけて、ガケ書房にその本を並べ始めたのだった。

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